2023年8月4日(金)

◆日本記者クラブ『国連「ビジネスと人権」ワーキンググループ 会見』
通訳:渡辺奈緒子さん(サイマル・インターナショナル)

◇ステートメント『メディアとエンターテインメント業界』

ジャニーズ事務所のタレントが絡むセクシュアル・ハラスメント被害者との面談では、同社のタレント数百人が性的搾取と虐待に巻き込まれるという、深く憂慮すべき疑惑が明らかになったほか、日本のメディア企業は数十年にもわたり、この不祥事のもみ消しに加担したと伝えられています。

私たちは、政府がこれまで20年にわたり、子どもの性的虐待防止につき、いくつかの措置を講じてきたことに留意します。しかし、政府や、この件について私たちがお会いした被害者たちと関係した企業が、これについて対策を講じる気配がなかったことは、政府が主な義務を担う主体として、実行犯に対する透明な捜査を確保し、謝罪であれ金銭的な補償であれ、被害者の実効的救済を確保する必要性を物語っています。

証言によると、ジャニーズ事務所の特別チーム(または独立チーム)による調査については、その透明性と正当性に疑念が残っています。ジャニーズ事務所のメンタルケア相談室による精神衛生相談を希望する被害者への対応は不十分だとする報告もあります。

UNGPsのコンプライアンスを図るためには、あらゆるメディア・エンターテインメント企業が救済へのアクセスに便宜を図り、正当かつ透明な苦情処理メカニズムを確保するとともに、調査について明快かつ予測可能な時間軸を設けなければなりません。私たちはこの業界の企業をはじめとして、日本の全企業に対し、積極的にHRDDを実施し、虐待に対処するよう強く促します。

(『国連ビジネスと人権の作業部会:訪日調査、2023 年 7 月 24 日~8 月 4 日:ミッション終了ステートメント』,国際連合,2023年8月4日)
https://www.ohchr.org/sites/default/files/documents/issues/development/wg/statement/20230804-eom-japan-wg-development-japanese.pdf

UNGPs:ビジネスと人権に関する指導原則(United Nations Guiding Principles on Business and Human Rights)
HRDD:人権デューデリジェンス(Human Rights Due Diligence)

<国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会「質疑応答」>

質疑応答
https://youtu.be/lIdaDs8jxHM?t=4296(1:11:35~)

質問1

個人会員のシバタと申します。お二人にお尋ねしたいです。
ジャニーズ問題に関してですね、政府がですね。事業主体として、透明な捜査をする必要性を提言しておられますが、テレビ局や新聞雑誌、スポンサー企業・広告代理店などですね。ジャニーズ事務所と取引関係のある企業も人権デューデリジェンスを行使して。ただですね、特別チームの調査結果を待つのではなくて、人権デューデリジェンスを行使して、徹底的な捜査。いや、調査をするようですね、積極的に働きかけるべきではないでしょうか?
また、これまで自らもですね、どんな加担をしてきたか、してきた可能性があるのか。自らの企業内にですね、調査チームを立ち上げて、内部調査をするべきではないでしょうか。

回答1

ピチャモン・イェオパントン氏(国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会 アジア・太平洋地域メンバー)

ありがとうございます。
この、私たちのステートメントの中でも申し上げましたけれども。人権を守る主たる責任は、まず政府にあります。ただ、この指導原則の中でも書かれておりますけれども。
企業は、あらゆるセクター、業種の企業、あらゆる規模の企業が人権デューデリジェンスを行うことが重要であると、この指導原則のなかで謳われています。
ですので、私たちは、全ての企業。特にこのメディアエンターテインメント業界にあるすべての企業が、この問題の特定をし、それに対応するための能動的な。そして積極的な人権デューデリジェンスを行うということを促したいと思います。

質問2

TBSのムラセと申します。今日はありがとうございます。
先ほどのお話のなかで、日本で会ったなかに、ジャニーズ事務所も入っているということだったんですけれども。ジャニーズ事務所のどのような立場の方と面会されたのか。特に藤島社長との面会は行われたのか。どのような聞き取りを行われたのか。可能な範囲で教えて頂けますか。
それと、もうひとつですね。
ジャニーズ事務所のように子供、児童のタレントを抱える事務所がですね。このような性加害を防ぐために、どのような措置をとるべきたったか。その点については、どのように考えていらっしゃるかを教えて頂けますか。

回答2

ダミロラ・オラウィ氏(国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会議長)

ご質問ありがとうございます。
先ほどのステートメントのなかでも申し上げましたように、ジャニーズ事務所の代表の方にお会いをいたしました。また、お会いした人のなかには、このジャニーズ事務所で起きたと言われている児童性的加害の被害者と言われている人たちにもお会いをいたしました。

それから、どのような措置をとるべきたったかというご質問ですけれども。
これは、先ほどのステートメントのなかでも申し上げましたように、この指導原則のなかでは、この調査をする際には、それが正当な調査であり、透明性のある調査でなければいけないと書かれています。これを担保する必要があると思っておりますし。また、関連する全てのステークホルダーが、この指導原則を守り、全ての人の人権に責任をもつべきだと考えます。

ピチャモン・イェオパントン氏

2つ目の質問に付け加えて申しあげます。

まず、企業が法律を守り、そして人権デューデリジェンスを行うことによって、自分たちの事業からどのようなリスクがあるのかということを理解をしていくということが、非常に重要であります。
そして子供、子供の権利を守っていくことが重要となります。
それから、企業にもうひとつ求められているのが救済メカニズムをつくると、苦情処理メカニズムをつくるということです。
これは、過去の苦情。そしてまた将来、発生する苦情。これを処理できるメカニズムをつくることが必要で、そのメカニズムの設計にはすべてのステークホルダーが関与してつくっていくことが必要でしょう。それからまた政府としましては、子供の。特に子供の人権を、守るための法律の改善ということが求められるでしょう。

質問3

それではお二人にお伺いしたいんですけれども。先ほど、ジャニーズの代表の方とお会いしたのは、それは藤島社長ということでよろしいでしょうか。
そして、実際にお会いした時に、どういった内容の話があったのか。詳細に教えて頂けますでしょうか。
よろしくお願い致します。
フジテレビのキノシタと申します。

回答3

ダミロラ・オラウィ議長

ありがとうございます。
私共の手続きに従いまして、先ほど、ステートメントのなかで申しあげましたように、ジャニーズ事務所の代表の方とお会いしたという風に申しあげましたけれども、これ以上の更なる情報は提供することができません。
内容に関してですけれども、我々として知りたかったのは、今、告発されている内容について。それに対して、どのような措置がとられているのか。その対応が正当なものなのか。効率的なものなのかということであります。これの聞き取りを行いました。
で、私共のステートメントのなかでも申しあげましたけれども、この指導原則を守るために、メディア及びエンターテインメント業界の全ての企業が、この救済へのアクセスを担保しなければならない。そして苦情処理メカニズム。正当で透明性のあるものを設計し、また用意しなければならない。
そして、またその調査を行う際には、明確にタイムフレーム。どれ位の期間で行うのかとうことを提示しなければならないと考えています。
そうすることによって、被害者の人たちは自分たちの人権が守られていると感じ、また、この指導原則も守られているということを確認することができるでありましょう。

今の段階でこれに関した質問がたくさんございましたけれども、我々のプレゼンテーションのなかでは様々な問題を取りあげました。他に関する質問がありましたら、お願いいたします。

質問4

ArcTimes オカダさん

まず、非常に広範な調査をして頂きましたことに感謝申し上げます。
そこで伺いたいのですけれども、日本の人権状況を率直な評価を教えて頂きたいんですけれども。(日本の)人権状況は方向として改善されつつあると思いますか、それとも悪化しつつあるという風にお考えでしょうか。

それから、2つ目の質問。これはジャニーズ事務所関連です。これも率直な評価、現状の評価を頂ければと思いますけれども。この被害者にもお会いになられたということでありますが、先ほどのステートメントにもありましたけれども、被害者の数は数百人にも上るとも言われています。
これだけの被害者が出た状況、この性質はどのように評価されていらっしゃいますでしょうか。
これは、アメリカのハーヴェイ・ワインスタインもしくはジェフリー・エプスタインのようなケースと比較してどのような評価をされていますでしょうか。
数百人というのは凄い数だと思います。

それから、ジャニーズ事務所の対応。今のところ何の対応もまだしていません。つまり、記者会見も行っていません。これは国際的な基準に照らしてどうお考えでしょうか。記者会見など、いわゆる公に向かっての姿勢、これを拒んでいるわけですけれども、これだけ何百人もの人権侵害があったタレントに対しての性的虐待があったなかで、この姿勢をどのようにお考えでしょうか。

それから3つ目。この、メディアというのが、このスキャンダルの一助となったのではないかという、先ほどのステートメントのなかで触れていらっしゃいます。これはBBCのドキュメンタリーのなかでも言われていたことですけれども。つまり、メディア、例えばテレビ局などが、この問題を封鎖してしまった。
いわゆる沈黙を守った一助となっているのではないかということです。

そうであれば、例えばテレビ朝日とかNHKとかフジテレビ。こういったところが、果たした役割もあるのではないかと思いますけれども、今回、どうしてそのようなテレビ局というものを調査しなかったのでしょうか。調査の対象にしなかったのでしょうか。

回答4

ダミロラ・オラウィ議長

まず、ジャニーズ事務所対してのご質問を致します。
ここでだいじなのは、人権侵害があったという告発があった場合には、どのようなものであれ、それを真剣に捉えて適切な調査をするということが重要です。これは、先ほどの指導原則に乗っ取った形で、その調査を行っていくということが重要です。
先ほどのステートメントのなかでも申しあげましたけれども、その際には、調査というのは透明性をもったものでなければいけない。正当でなければいけない。
そして、被害者に対しては、きちっと救済が提供されなければいけない。
その救済の形というのは、謝罪であったり、金銭的な補償であったり、かもしれませんけれども、そのような救済を適用する必要がある。
そうして、すべてのステークホルダーが、そのような救済へのアクセスを提供しなければいけない。担保しなければいけない。
そして、苦情処理メカニズムは、正当で透明性のあるものでなければいけない。
そして明確に時限をきって、大体どれくらいの期間がかかるのかということを提示しなければいけない。

ピチャモン・イェオパントン氏

はい。今、同僚が説明を致しましたけれども、それに加えてわたくしの方からも補足をさせて頂きます。
この指導原則のなかでも、明らかにされているように、企業というのは、その自分たちの活動によって、このような人権侵害を引き起こす可能性もあるし、それを助長する可能性もあるし、そこに関連づけられる可能性もあるわけであります。
それは自分たちの事業活動を通して、そして、その取引先を通して、そのようなことが発生する可能性があるわけです。
ですので、企業に期待されているのは、人権デューデリジェンスを行う。
そして、その影響力を行使して、その取引先に対して、強制をしていくわけです。
その指導原則を守らせるという働きかけを行う、ということが重要になってまいります。

それから、最初の質問で、日本の人権の状況はトレンドとしてどっちの方向に進んでいるのかというご質問がございました。

この状況ですけれども、このジャニーズ事務所に限ってのはなしではないわけですけれども。
日本全体の状況で申しあげますと、確かに「ビジネスと人権」という意味では、大きな進展がみられました。しかしながら、それでも残っているシステミックな課題が残っており、これに対応する必要があります。これは、深く根差した不公正な「ジェンダー規範」、もしくは「社会規範」。
これに対応していく必要があります。
ですから、日本の状況というのは、チャンスもあれば課題もある。ということだと考えています。

質問5

毎日新聞のイトウと申します。
お二人のどちらかにお答え頂きたいのですけれども、今回のステートメントのなかで記されているジャニーズ問題の被害者の方が数百人程度だろうと書かれていますが、この数字というのは、どのように導かれたものでしょうか。教えてください。

回答5

ダミロラ・オラウィ議長

ステートメントのなかでも示しておりますように、私たちは、さまざまな人たちと。広範なディスカッションをし、会合をもちました。
ですから、このジャニーズ事務所で起きたとされる性的搾取、性的加害の告発をしているその被害者とも会っております。
それだけではありません。
他のステークホルダーとも会っております。そして、その結果を先ほど表明をさせて頂いたわけです。

ピチャモン・イェオパントン氏

はい、加えて補足をさせて頂きます。
この、今回の訪日の前に、準備段階でも調査をしております。そして今回、訪問をさせて頂いて、その最後に、先ほどステートメントをまとめたわけであります。
ですから、ここで出しております情報というのは、私たちが机上で。つまり、デスク上で行った調査。及び実際に人々と会って聞き取りをした調査。それが反映をされております。
その際にお会いした相手というのは、あらゆるセクター。様々な複雑複数のセクターの方々でありました。
ハイライトしておりますように、特に、メディア・エンターテインメント業界における被害者の人たちも会いましたし、その他の人たちにもお会いしています。
例えば、技能研修制度に関してのステークホルダーとも会っておりますし、また、福島第一のクリーンアップ作業に関わっている人たちともお会いをしております。

ダミロラ・オラウィ議長

それから、先ほどの男性の方の質問に最後に答えさせて頂きます。
ワーキンググループの今回の調査の期間というのは、12日間しかなかったわけですので、ご想像頂ければ分かると思いますけれども、私たちのこのレポートの内容というのは、12日間でカバーできた範囲であるということです。しかしこれから先、数か月をかけまして、更なる情報の収集を行って、最終的に報告書をまとめて、それを2024年の6月に人権理事会に提出する予定であります。
その最終報告書のなかには、政府に対して、そして企業に対しての提言・勧告が含まれることになります。ステークホルダーに対しての勧告も含まれていくことになります。
そうすることによって、人権の尊重が強化され、企業の活動における人権の尊重が強化されることが意図されております。